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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)10100号 判決

原告 渡辺昇

被告 沖山斌基 外三名

主文

一、被告沖山斌基は原告に対し別紙目録記載の宅地に対し原告が有する、東京法務局芝出張所昭和二十八年十月十五日受附第九八五一号抵当権設定登記に対してなした同出張所昭和三十年八月二日受附第八四二五号抵当権登記抹消登記の回復登記手続をせよ。

二、被告中畝康治同柳守は、被告沖山の原告に対する前項の回復登記手続に対して承諾をなせ。

三、原告の被告沖山同中畝同柳等に対するその余の請求被告遠藤に対する請求はいずれも棄却する。

四、訴訟費用中原告と、被告遠藤との間に生じた分は原告の負担とし原告と、被告沖山との間に生じた分は、被告沖山の負担とし、原告と被告中畝及び被告柳との間に生じた分は之を各二分しその一を原告の負担としその余を被告中畝同柳の各負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告沖山は、原告に対して別紙目録記載の宅地(以下単に本件宅地と略称する)に対して原告が有する東京法務局芝出張所昭和二十八年十月十五日受付第九八五一号抵当権設定登記(以下単に本件抵当権設定登記と略称する)に対して為した同出張所昭和三十年八月二日受付第八、四二五号抵当権登記抹消登記(以下単に本件抵当権抹消登記と略称する)、及び本件宅地に対して原告が有する同出張所昭和二十八年十月十五日受付第八、九九二号賃借権設定請求権保全の仮登記(以下単に本件賃借権設定仮登記と略称する)に対してなした昭和三十年八月二日受付第八、四二六号賃借権仮登記抹消登記(以下単に本件賃借権仮登記抹消登記と略称する)の各回復登記手続をせよ。被告遠藤、同中畝、同柳は被告沖山の原告に対する前記各回復登記に対して承諾をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、本件宅地はもと被告沖山の所有に属していたものであるが、原告は被告沖山に対して昭和二十八年十月七日金七十万円を弁済期は昭和二十八年十一月七日利息は年一割の約で貸与し、被告沖山は原告に対して右債権を担保するため本件宅地に抵当権を設定し本件抵当権設定登記をなし、又前同日原告及び被告沖山間において本件宅地につき、被告沖山が前記被担保債務を其の弁済期に弁済しなかつたときは賃借権が発生しその存続期間は右発生の日より約満三ケ年賃料一坪に付金五円毎月末日払賃借物の転貸及び賃借権の譲渡をなし得る特約付の停止条件付賃借権設定請求権保全のため本件賃借権設定仮登記をなした。ところが原告は前記登記後たる昭和三十年八月下旬頃前記芝出張所より原告に対して本件土地につき保証書を以て本件抵当権抹消登記及び賃借権仮登記抹消登記が夫々なされた旨通知を受けたので驚いて右登記所にいたり調査したところ被告沖山が登記済権利証の代用として保証書を以て前記各抹消登記をなし更に本件宅地の所有権を、昭和三十年八月二日売買により被告遠藤に、同被告は昭和三十年八月十七日売買により被告中畝に夫々移転した旨所有権移転登記をなし且被告柳は昭和三十年九月一日売買予約により被告中畝に対して所有権移転請求権保全の仮登記をなしていることが判明した。しかしながら原告は被告沖山より前記抵当債務の弁済を受けたこともなく本件抵当権抹消登記及び本件賃借権仮登記抹消登記につき被告沖山に対し同意したとか原告の印鑑を交付したとかいう事実は全然ない。従つて右各抹消登記は被告沖山が擅に原告名儀の委任状を偽造し勝手に右各抹消登記手続を申請したことによるものに外ならないから右各抹消登記は原告の意思にもとずかざるものであつて無効である。従つて原告は被告沖山に対しては勿論右無効な抹消登記後に所有権取得の登記をなした被告遠藤、同中畝並びに所有権移転請求権保全の仮登記をなした被告柳に対しても、いずれも抹消された本件抵当権設定登記及び賃借権設定仮登記を以て対抗し得るものである。そこで原告は被告沖山に対しては右各抹消登記の回復登記手続をなすことを求めると共に被告遠藤同中畝同柳はいずれも以上の回復登記手続をなすにつき利害関係を有する第三者であり、「且つ原告の右手続に対して承諾をなす義務がある」のでその承諾の意思表示を求めるため本訴請求に及んだと述べ、立証として甲第一号証ないし第四号証を提出し、証人関亨の証言竝びに被告沖山斌基、同遠藤章夫及び原告渡辺昇各本人の尋問の結果を援用し、被告遠藤提出にかゝる丙第二号証の成立を認め同第一号証の成立を否認すると述べた。

被告沖山訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、本件宅地がもと被告沖山の所有に属したこと、原告主張の如き各登記が存することを認めその余の事実を否認し、被告沖山は昭和二十八年十月頃原告から手形割引により金六十万円を借受け本件土地の権利証に委任状を付して原告に交付していたことがある。しかし右債務は被告沖山が原告に対して処分斡旋方を依頼した目黒区中根町六十五番地厚生産業株式会社の宅地及び建物の売却代金中より原告が既に差引計算の上その弁済に充当しているから右債務は消滅し原告及び被告沖山間に債務関係はない、なお被告沖山は被告遠藤に本件宅地を売却したことはない、と補述し、立証として被告沖山斌基本人尋問の結果を援用し、甲第一ないし第三号証第四号証中土地抵当権設定登記の抹消登記申請書の各成立を認め、同第四号証中渡辺昇名義の委任状及び保証書の各成立は不知、沖山斌基の委任状の成立は否認すると述べた。

被告遠藤訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、原告主張の如き各登記が存することを認めその余の事実を否認し、立証として丙第一、二号証を提出し甲号各証の成立を認めた。

被告中畝同柳両名訴訟代理人はいずれも原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、本件宅地がもと被告沖山の所有に属していたこと原告主張の如き各登記が存することを認めその余の事実を否認し、被告中畝及び同柳等には右登記面に表示の如き物権変動の事実が存し且右登記を信用して被告中畝は被告遠藤より右所有権を取得し被告柳は被告中畝に対し売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をなしたものであるから善意の第三者であると述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

先ず原告の被告沖山に対する本件抵当権抹消登記及び本件賃借権仮登記抹消登記の各回復登記請求につき判断する。

原告と被告沖山間において本件宅地がもと被告沖山の所有に属していたこと、本件宅地に対し原告は本件抵当権設定登記及び本件賃借権設定仮登記を有していたこと以上の登記はいずれも抹消されたことは当事者間に争のない事実である。

そこで本件抵当権抹消登記及び本件賃借権仮登記抹消登記がいずれもその登記義務者である原告の意思にもとずかない無効なものであるか否かの点につき考えるに、原告と被告沖山との間で成立に争のない甲第三号証及び第四号証中土地抵当権設定登記の抹消登記申請書竝びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件抵当権抹消登記について原告及び被告沖山双方の申請代理人山内輝夫が右双方申請名義の抹消登記申請書を作成し之に右手続の申請に関する権限を代理人山内輝夫に与える旨の双方の代理委任状及び登記義務者の権利に関する登記済証滅失を理由に保証書を代用添付して、右抵当債務が両者間で昭和三十年七月二十三日弁済により消滅したことを理由に本件抵当権抹消登記を申請し、その際同時に本件賃借権設定仮登記についても前同様山内輝夫を双方の代理人として前記各代理委任状を添付し右賃借権設定請求権が昭和三十年七月二十三日解約により消滅したことを理由に本件賃借権仮登記抹消登記を申請し夫々その旨各抹消登記がなされたことが認められる。

而して前記各申請書に添付し東京法務局芝出張所に提出された原告名義の代理委任状は全証拠によるも原告が真正に作成したものであることを認め難くかえつて原告及び被告沖山間で成立に争のない甲第一、二号証及び原告並びに被告沖山斌基(一部)の各本人尋問の結果及び証人関亨の証言(一部)を綜合すると、原告は昭和二十八年十月頃被告沖山より手形割引による金融方を頼まれ金七十万円を弁済期は昭和二十八年十一月七日利息は年一割の約にて貸与し、その債権を担保するため本件宅地に抵当権を設定し右契約にもとずき本件抵当権設定登記をなし、その際同時に原告主張の如き本件賃借権設定仮登記がなされたものであるところ、右登記済証たる土地抵当権設定登記の申請書(甲第一号証)及び土地停止条件付賃借権設定請求権保全の仮登記申請書(甲第二号証)はいずれも右債権者たる原告が現在まで所持し、本件抵当権抹消登記及び賃借権仮登記抹消登記がなされた昭和二十年八月二日頃及びその以前に於て原告が右各登記済証を滅失もしくは紛失した事実がないこと、被告沖山は本件以外にも原告に対し債務を負担しており、被告沖山において原告に対して処分を依頼した目黒区中根町六十五番地厚生産業株式会社の宅地建物の売却代金を以て原告が他の債務の弁済に充当したことはあつたが未だ本件抵当債務については弁済がなされていないこと、原告は被告沖山に対して本件抵当権設定登記及び本件賃借権設定仮登記の各抹消について承諾を与えたことはないこと、甲第四号証中原告名義の委任状は原告の自署ではなく、名下の印影も原告が押したものではなく全く原告の不知のままに作成されたものであることの各事実が認められる。従つて本件抵当権抹消登記申請竝びに賃借権仮登記抹消登記申請はいずれも偽造による原告名義の代理委任状により原告の意思にもとずかずしてなされたものであるから無効である。従つて右各抹消登記はその無効登記の権利者である被告沖山において原告のために回復登記手続をなすべき義務がある。但し原告の被告沖山に対する本件賃借権仮登記抹消登記請求権は後記理由により消滅したものと解するから結局被告沖山は原告に対し本件抵当権抹消登記の回復登記手続をなすべき義務があるものと言はなければならない。

そこで次に被告沖山の原告に対する前記各回復登記手続をなすについて被告遠藤同中畝同柳が夫々承諾をなす義務があるか否かの点について判断する。以上の如く右各抹消登記は無効であり原告と被告遠藤との間(丙第一号証は原告及び被告遠藤章夫(一部)の各本人尋問結果と対比しその成立を認め得ない)竝びに原告と被告中畝同柳との間においても前記認定を左右するに足る証拠は存しないから、原告と以上各被告間においても前記各抹消登記手続は無効といわなければならない。そこで回復さるべき本件抵当権設定登記及び賃借権設定仮登記はいずれもその登記がなされた当時に遡つて効力を有するものと解せられる。しかしながら以上各被告の承諾義務の有無については今少しく検討の余地がある。

即ち不動産登記法第六十五条に規定する「抹消シタル登記ノ回復ヲ申請スル場合ニ於テ登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」とは単に登記の形式上利害の影響を及ぼす者を意味するのではなくて、その取得した権利に対し現に利害の関係を生ずる者を指すと解するを相当とするから、(大審院判例大正四年六月三十日判決参照)被告遠藤は既に昭和三十年八月十七日被告中畝に売買による所有権移転登記をなし(右事実は原告及び被告遠藤間において争がない)現在の所有名義人ではなくなつており、原告の回復する本件抵当権設定登記との関係では抵当物件たる本件宅地の第三取得者たるの地位を既に離れてしまつている。又同様原告の回復する本件賃借権設定登記との関係においても賃借権設定の請求に対する承諾義務者たる地位を失つている。よつていずれの場合においても被告遠藤は本件回復登記をなすにつき承諾を要する利害関係ある第三者とは解せられない。故に原告の被告遠藤に対する請求はその点においていずれも理由がない。

次に原告と被告中畝同柳との関係について考えるに被告中畝は昭和三十年八月十七日被告遠藤より売買による所有権移転登記をなし又被告柳は被告中畝に対し昭和三十年九月一日売買予約により所有権移転請求権保全の仮登記をなし(この事実は原告と被告中畝及び被告柳との間で夫々争のない事実である)原告と被告中畝同柳間で成立に争のない甲第三号証登記簿謄本によれば現在夫々その旨登記がなされていることは明らかである。よつていずれも原告の本件抵当権設定登記及び賃借権請求権保全仮登記に対しては前叙法理に照らし利害関係ある第三者と解せられるところ、被告中畝及び同柳の原告に対する承諾義務の有無については、回復さるべき登記が本登記であるか仮登記であるかによつて法理上差異あるものと言はざるを得ない。即ち抹消された本件抵当権設定登記は本登記であるから第三者に対し対抗力を有し、従つて右無効な抹消登記後権利を取得した第三者に対してもその善意悪意を問はず一様に回復さるべき抵当権設定登記を以て対抗し得ることとなる。よつて原告は本件抵当権抹消登記の回復登記をなすにつき利害関係人たる被告中畝同柳の承諾を求める権利があると言うべきであるから原告の被告両名に対する右請求は理由がある。然しながら本件賃借権設定仮登記はその仮登記たる性質上それ自体第三者に対し対抗力がないから、右抹消登記の回復登記をなすにつき登記簿上利害関係ある第三者といえども右抹消登記の回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、またはその損害が回復登記権利者たる原告の回復登記をなし得ない損害と比べて顧慮するに値しないと認められる場合のほかは、回復登記手続に承諾する義務がないと解するのを相当とするから(最高裁判所判例昭和三十年六月二十八日判決参照)、更に進んで被告中畝及び同柳の各所有権取得登記及び所有権取得請求権保全の仮登記が各自善意でなされ且過失なきものか否かの点について判断するに、被告中畝は被告遠藤より売買による所有権移転登記をなし被告柳は被告中畝に対して売買予約による所有権移転請求権保全仮登記をなしたことは前記争のない事実であるところ、被告中畝は被告沖山と被告遠藤との間の所有権移転登記を信じて右土地を買受けて所有権移転登記をしたものであり被告柳は被告遠藤と被告中畝との間の所有権移転登記を信じて右土地につき売買予約により所有権移転請求権保全仮登記をしたものであると主張するのに対し原告はこれに対する何等の反証を提出せず、前記認定の登記簿の記載を覆すに足る特別の事情についてはこれを認めるに足る証拠がないので登記簿記載のとおりの実体上の権利変動があり被告中畝及び同柳はいずれも右権利を取得するにつき善意無過失なるものと認定される。しかるに原告が訴求する本件賃借権仮登記抹消登記の回復登記がされた場合には原告は被告中畝若しくは被告柳(同被告が所有権移転の本登記をなした場合)に対して右仮登記記載の如き賃借権設定の本登記手続をなすことを求め得べく、その本登記がなされるに於ては結局被告等の取得し又は取得し得べき本件宅地の所有権に対抗し得る賃借権が発生し得ることとなる。しかるに原告及び被告遠藤章夫の各本人尋問(一部)の結果竝びに弁論の全趣旨によれば本件宅地の一部には建物が存するが他の部分は更地であつて同所の空地は将来宅地として利用可能であり且相当の利用価値あるものと窺はれるところ、原告の賃借権の本登記により右利用関係は制限されることになる。

しかも本登記を請求し得る停止条件である被告沖山の原告に対する本件抵当権の被担保債務はいまだ弁済されておらず既に弁済期を経過していること前記認定の如くであるから原告は本登記を請求し得る状態にある。従つて右本件賃借権設定仮登記が回復されるに至らば被告中畝及び被告柳は不測の損害をこうむる結果となることは明らかである。よつてかような場合被告両名は前叙法理に照らしもはや原告に対して本件回復登記承諾をなすべき義務を負はなくなつたものと解するのを相当とする。従つて原告の被告沖山に対する本件賃借権仮登記抹消登記の回復登記手続をなすにつき被告中畝及び被告柳に対し承諾を求める請求は理由がないというべきである。

以上の如く原告は被告中畝及び同柳に対して法律上回復登記手続につき承諾を求め得なくなつたので、原告としては本来は被告沖山に対して本件賃借権仮登記抹消登記の回復登記を求め得たにもかかわらず(この点につき原告に理由あることは前に認定したところにより明らかである。)抹消登記の回復登記を申請する手続要件である不動産登記法第六十五条前段に定める所謂「利害関係人に対抗することを得べき裁判」を法律上求め得ざる結果となるに至つた。

元来抹消登記の回復登記申請に利害関係を有する第三者の承諾を要する所以は、回復された登記は抹消された登記と同一の順位を有するから何等の制限なく回復登記を許すときはその回復に利害関係を有する第三者の利益を不当に害するおそれがあるので、その利害関係人の利益を保護する趣旨で設けられた規定であるからこの場合の抹消回復登記請求権は利害関係人なき場合と異なり本来の回復登記義務者に対する抹消回復登記を求める権利に利害関係人に対して承諾を求める権利が合体して、はじめてその効力を生ずるものと解せられるところ、原告の本訴請求は被告等に対し請求趣旨の如き判決を受けて不動産登記法第二十七条により原告単独で抹消回復登記を申請することを得る裁判を求めているのであるから、被告沖山に対する回復登記を求める訴と被告中畝同柳に対する右回復登記に対する承諾を求める訴とは各々請求としては別個であつても、これを原告が訴求する本件賃借権仮登記抹消登記の回復登記申請に必要な裁判、即ち利害関係人ある場合の抹消回復登記請求権として見た場合は、夫々前記請求権の要素として相互に関連し一体として考察すべきを相当とするから、前叙理由により被告中畝同柳が原告に対し承諾義務がない場合には被告沖山に対して右回復登記手続に協力すべき旨を命じたとしても、両被告の承諾を得られないから原告はこれをもつて本来の(被告中畝同柳に対抗し得る)抹消回復登記をなす由がない。いいかえれば被告沖山が原告に対し右回復登記手続に協力すべき義務は右の事由により本来の履行をなし得なくなつたものといはなければならない。

もつとも原告は被告中畝同柳より別途当事者間の交渉により訴訟外で爾後に合意の上で同被告等の承諾書を得られることも考えられる。しかしそれは訴訟上の請求とは別個のことであるのみならず、両被告は法律上承諾義務がないのだから承諾すると否とは専ら両被告の意思にのみかかるものでその可能性は予測の限りではない。そこでそのような予測し得ない事情の存在を前提として被告沖山に対する回復登記手続に協力すべき義務の履行を、その内容たる回復登記の実現と切りはなして独立に命じる意義はきわめて乏しいといはなければならない。

むしろ前記の如く、この場合被告中畝同柳の承諾と一体となつてはじめて原告の被告等に対する回復登記請求権が発生するものと解するを相当とする(以上の見解は本訴の性質が「合一にのみ確定すべき場合」であるとする見解ではない。したがつて各別に訴へ得ることもできるし、その場合には以下の結論と異にする場合もあり得ること、一般の例と同じである)から以上の認定の如く利害関係人の承諾が法律上求め得られず且つ事実上もその可能性が予測せられない限り、原告の被告沖山に対する右回復登記義務の本来の履行を求める原告の請求は許されなくなつたものと言うべきである。よつて原告の右請求は理由がないから棄却すべきものである。

以上の如く認定した上訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二条を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 石井玄 林田益太郎)

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